医学生物学領域に関する国際原則 (The international Guiding Principles For Biomedical Research Involving Animals) は、10の原則からなります。
7つ目の原則です。
1. Investigators should assume that procedures that would cause pain or distress in human beings cause pain or distress in animals, unless there is evidence to the contrary.
(私訳)ヒトに対して痛みや苦痛をもたらすだろう手法は、動物に痛みや苦痛をもたらす、と想定しなければならない。
(解説)助動詞wouldに注目。ヒトで苦痛をもたらすだろう(would cause)手法。対して、動物に苦痛をもたらす(cause)手法。この違いは何か?動物に実際なされている手法は、ヒトでは現実にはなされていない。各種摘出手術、遺伝子改変、薬物投与実験など。
2. Thus, there is a moral imperative to prevent or minimize stress, distress, discomfort, and pain in animals, consistent with sound scientific or veterinary medical practice.
(私訳)そのため、ストレス、苦痛、不快感、痛みを避けるあるいは最小限にするための道徳的要請が存在し、これは、科学的あるいは獣医学的実践と矛盾しないものである。
(解説)
3. Taking into account the research and educational goals, more than momentary or minimal pain and/or distress in animals should be managed and mitigated by refinement of experimental techniques and/or appropriate sedation, analgesia, anesthesia, non-pharmacological interventions, and/or other palliative measures developed in consultation with a qualified veterinarian or scientist.
(私訳)研究そして教育上の目標を考慮すると、動物の一時的ないしは最小限の痛みや苦痛でさえも、実験手技の洗練、適切な鎮静、鎮痛、麻酔、非薬理学的介入、そして、資格を持った獣医師や科学者の助言によって作成された緩和策などによって、管理・緩和されなければならない。
(解説)
4. Surgical or other painful procedures should not be performed on unanesthetized animals.
(私訳)無麻酔下の動物に対して、外科的処置あるいは痛みをともなう処置は行ってはならない。
(解説)
ここでは、ヒトと動物の共通性が存在することが前提になっています。
つまり、「苦痛や痛みといった基本的な感情・感覚は、ヒトと動物で共通している」、という考え方です。
ヒトと動物が共通の生物的な基盤ともつことは、様々な面で指摘されています。
たとえば、遺伝やゲノムの研究から、ヒトと動物は多くの遺伝子を共有しており、それぞれがよく似ていることがわかっています。神経学では、ヒトと動物が共通の神経機能をもつことが指摘されています。さらに、行動学ではヒトと動物の基本的な行動や表情が似ていることが示されています。
これらの知見は、様々な分野で蓄積されたものですが、もとはといえば、ヒトと動物は共通の祖先から長い年月をかけて分岐していったという「進化論」に緒を発します。
さて、本題に戻りますが、ヒトから見て(想像して)、その行動や表情から、苦痛や痛みを示していると思われる動物がいるならば、その苦痛や痛みを取り除くべきであるということがこの項では述べられています。
苦痛や痛みを取り除く方法として、取り扱い者の観点(実験手技)、薬物の観点(麻酔など)が挙げられています。
冒頭の「苦痛や痛みといった基本的な感情・感覚は、ヒトと動物で共通している」という考え方は、動物実験に反対するする方々の理論的柱でもあります。動物実験を行う立場と、それに反対する立場が、共通した認識をもっているのです。
では、なぜ、対立が起こるのでしょうか?
以下、私見ですが、動物実験に反対する立場は、「そもそも健康な動物に、苦痛や痛みを与えてよいのか?」という考えなのではないでしょうか。
動物実験を行う立場は、「人の福祉を考えたならば、健康な動物に、苦痛や痛みを与えてることもいたしかたない。しかし、その苦痛や痛みは最小限であるべきだ。」という考えかたではないでしょうか。