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2019年4月26日金曜日

三種混合麻酔の調整法

三種混合麻酔の特徴を以前紹介しました。

ここでは、実際に調整する具体的な方法を紹介します。

市販のメデトミジン(商品名・ドミトール)、ミダゾラム(商品名:ドルミカム)、ブトルファノール(商品名:ベトルファール)は液体の状態で販売されています。

それぞれの濃度は、以下の通りです。
  • ドミトール    1 mg/mL
  • ドルミカム    5 mg/mL
  • ベトルファール  5 mg/mL

ラット体重100g当りの必要量(mg)は、以下の通りでした。
  • ドミトール    0.015 mg
  • ドルミカム    0.20 mg
  • ベトルファール  0.25 mg

なので、ラット体重100g当りの必要量(mg)を含む量(mL)は以下の通りになります。
  • ドミトール    0.015 mL
  • ドルミカム    0.040 mL
  • ベトルファール  0.050 mL

生理食塩水でかさ増しし、切りのよい数字にしましょう。
  • ドミトール    0.015 mL
  • ドルミカム    0.040 mL
  • ベトルファール  0.050 mL
  • 生理食塩水    0.395 mL
  •            0.500 mL

しかし、測り取るのが大変ですね。なので、すべて20倍にして測り取りましょう。
  • ドミトール    0.3 mL
  • ドルミカム    0.8 mL
  • ベトルファール  1.0 mL
  • 生理食塩水    7.9 mL
  •          10.0 mL

できました。このようにして調整した麻酔薬のうち0.5mLを用いれば、体重100gのラットを麻酔できます。

2017年3月23日木曜日

ガイドRNAの発注

CRISPR/Cas9システムを使って遺伝子改変ラット(ノックイン)を作製する方法を紹介しています。

今回は、ガイドRNAの発注です。

ガイドRNAを合成する方法はさまざまありますが、簡単なのはRNA合成を企業に発注することです。

2.ガイドRNAの発注
  ・Integrated DNA Technologies (IDT) に依頼する場合を紹介します。
   IDTのHPにアクセス
   CRISPR-Cas9 genome editingのページへ
   Alt-R(TM) CRISPR-Cas9 crRNA, 10 nmolを発注
   配列等を入力

  ・CRISPR-Cas9を働かせるには、tracrRNAとCas9 nucleaseが必要です。
   これらも一緒に購入できます。

  ・語句説明
   crRNA:ターゲットに特異的なRNAオリゴです。
   tracrRNA:crRNAと結合し、Cas9と複合体を形成します。
   Cas9 Nuclease 3NLS:crRNA:tracrRNA duplexに結合します。
              核移行シグナルが3つ付加されています。 



ガイドRNAのデザイン

CRISPR/Cas9システムを使って遺伝子改変ラット(ノックイン)を作製する方法を紹介します。

今回は、狙った遺伝子の配列を変えて、アミノ酸置換(ミスセンスあるいはナンセンス)させます。

1.ガイドRNAのデザイン
 ・ターゲット配列周辺のゲノムDNAを準備する。

 ・ガイドRNAのデザインサイトを利用
  代表的なものとして、CRISPR DESIGN
     search name*: 適当な名前を入れる
     email address*: メールアドレスを入れる
   sequence type: other region (23-500 nt)を選択
     target genome: rat (rn5)を選択
     sequence: 貼り付ける

 ・Agree and Submitを押す。

 ・数分するとResults画面に変わるので、Guides & offtargetsを押して、結果をみる。

 ・貼り付けた配列上にデザインされたガイドRNAがスコア順にでてきます。

 ・ガイドRNAの3'側にはPAM配列が記載されています。

2017年3月6日月曜日

近交系数 (coefficient of inbreeding)

非常に小さい集団では、血縁関係のある個体同士の交配が行われます。これを近交 (inbreeding)といいます。近交の程度は、近交係数 (coefficient of inbreeding)で表します。

近交係数とは、ある個体の任意の遺伝子座位において2つの対立遺伝子が同一である確率、です。the probability that the two genes at any locus in an individual are identical by decent.

少し専門的ですが、この [identical by decent]とは、祖先が持っていたある対立遺伝子のコピーが、近交が起こった結果、次世代あるいはそれ以降の世代で「同一の」対立遺伝子のホモ接合となったことを言います。two genes that have  originated from the replication of one single gene in a previous generation may be called identical by descent or simply identical.

そのため、近交係数とは、以下のように定義されます。

「1個体がある遺伝子座位についてホモ接合体であって、しかもその二つの対立遺伝子が共通祖先にあった1つの対立遺伝子に由来したものである確率」

実験動物のマウスやラットでは、兄妹交配を20世代以上行うことで、様々な近交系 (inbred strain) が作製されています。このような近交系では、近交係数が0.986以上になると言われています。

参考資料
Introduction to quantitative genetics (Falconer & Mackay)
人類遺伝学―基礎と応用―改訂第2版(金原出版)

2016年7月19日火曜日

三種混合麻酔薬

以下の三種類の薬剤を混合し、マウスやラットの麻酔薬として用いる。

1)メデトミジン medetomidine
  麻酔薬
  オピオイド
  拮抗薬として、ブトルファノールとアチパメゾール
  商品名:Domitor 日本全薬工業

2)ミダゾラム midazolam
  鎮静薬
  ベンゾジアゼピン類
  商品名:Dormicum アステラス製薬
  
3)ブトルファノール butorphanol
  麻薬性鎮痛薬
  商品名:Vetorphale 明治製菓ファーマ

濃度は以下の通り
  メデトミジン:0.15mg/kg体重
  ミダゾラム:2.0mg/kg体重
  ブトルファノール:0.75mg/kg体重

特徴は、麻薬指定されている薬剤を用いない。麻酔死が少なく安全。アチパメゾールという拮抗薬を投与することで、急速に回復。

その他:
滅菌生理食塩水での希釈
4度あるいは室温に保存しても、少なくとも8週間は安定
投与経路は、腹腔内投与あるいは皮下投与
麻酔からの回復には、アチパメゾールをメデトミジンの5倍量を皮下投与


参考資料:
LABIO21 No65, July 2016
ラボラトリーアニマルの麻酔 Flecknell著
Kirihara et al., (2016) Exp Anim 65:27-36
  

F344ラット亜系統におけるdipeptidyl peptidase IV (DPP4)/CD26活性の違い

dipeptidyl peptidase IV (DPP4)という酵素があります。
この酵素は、ペプチドを基質に、そのN末のジペプチドを遊離させます。

ホルモン制御、免疫反応、腎ペプチドの加水分解などに重要な働きをしていると考えられています。

実は、F344ラットのうち、日本チャールス・リバー社のF344ラットは、この遺伝子にミスセンス変異(Gly633Arg)をもっており、DPP4活性が欠損しています。

他方、日本SLCのF344、日本クレアのF344は、この遺伝子は正常で、DPP4活性を持っています。

マウスに高脂肪食を与えると、肥満や高インスリン血症になりますが、DPP4遺伝子のノックアウトマウスに高脂肪食を与えても、肥満、インスリン血症になりません。

おそらく、ラットでも同様のことがいえると思います。F344ラットを用いて高脂肪食で肥満を誘発する実験を行う場合は、どのブリーダーのF344を用いるか考慮する必要があります。

追加:
チャールス・リバー社のF344ラットのうち、ドイツのチャールス・リバーのF344はDPP4が欠損しています。しかし、米国チャールス・リバー社のF344はDPP4活性があります。

参考資料:
Watanabe et al., (1987) Experimentia 43:400-401
Thompson et al., (1991) Biochem J 273:497-502
Tsuji et al., (1992) Biochemistry 31:11921-11927
Erickson et al., (1992) JBC 267:21623-21629



2016年7月14日木曜日

イソフルラン:薬物代謝酵素への影響が少ない吸入麻酔薬

イソフルランは、マウス・ラットの吸入麻酔薬として利用されています。

導入と覚醒が非常に早く、麻酔の深度も容易かつ迅速に変えることができます。
非刺激性、非引火性であることも実験を行う上で、重要です。

動物の50%を不動化させるのに必要な濃度(肺胞内の濃度:Minimum Alveolar Concentration)は、マウスで1.41%、ラットで1.38%です。

実験をするうえでの最大の特徴は、代謝率が0.2%と非常に低いことです。肝臓のミクロソームの酵素への影響は少なく、薬剤の代謝および毒性研究にほとんど影響しないと考えられています。

参考:
『ラボラトリーアニマルの麻酔』Flecknell著、倉林譲監修
ラビオ21 No.65 (Jul 2016)





2016年3月28日月曜日

苦痛度分類

動物実験の計画の立案の際に、実験動物の苦痛を想定する必要があります。
苦痛度は、低い方から、A~Eの5段階に分類されます。

苦痛度A:生物個体を用いない実験あるいは、細菌、原虫などを用いる実験

苦痛度B:動物に対して、ほとんど、あるいはまったく不快感を与えないと思われる実験

苦痛度C:動物に対して軽微なストレスあるいは痛み(短時間持続)を伴う実験

苦痛度D:避けることのできない重度のストレスや痛み(長時間持続)を伴う実験

苦痛度E:無麻酔の意識ある動物を用いて、動物が絶えることのできる最大の痛み、あるいはそれ以上の痛みを与えるような処置

計画している実験の苦痛がどのカテゴリーに相当するか悩むことが多いと思います。
そこで、実験動物中央研究所で利用されている苦痛度検索表がひとつの目安になります。

ここでは、最大限の病態が得られることを前提とした場合、疾患モデルは基本的には、カテゴリ―D」となります。遺伝子改変などで疾患モデルを作製した場合は、ほぼすべてが「D」となります。

参考資料
日薬理誌 131:187-193, 2008
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/131/3/131_3_187/_pdf


2015年8月28日金曜日

ラットの唾液採取

ラットの唾液成分を分析するために、唾液を採取する必要があります。
しかし、分析に必要な量を集めるのは大変です。
そこで、薬剤を投与して、口腔内にあふれてくる唾液を採取します。

薬剤には、塩酸ピロカルピンを用います。


  1. 10%塩酸ピロカルピンを調整(ストック液)
  2. 10%塩酸ピロカルピン(ストック液)を生理食塩水で100倍希釈
    0.1%塩酸ピロカルピン液を調整
  3. ラットの体重100gあたり0.3mLの0.1%塩酸ピロカルピンを投与
    ラットはイソフルランで麻酔しておく
    投与経路は、皮下投与
  4. 5分程度経つと、唾液が口腔内にたまってくるので、ピペットで採取
  5. ラットの大きさにもよりますが、約50-100uLぐらいの唾液が採取できる
参考資料
Kondo et al., Exp Anim 42(1):83-88, 1993

2015年7月22日水曜日

アトピー性皮膚炎×アストロサイト

アトピー性皮膚炎による慢性的な痒みには脊椎のアストロサイトの活性化が関与しているとのことです。

アトピー皮膚炎モデルのNCマウスの痒みを支配する脊髄部位を、トレーサーを用いて同定。その脊髄部位(C3-C5)でアストロサイトの活性化astorogliosisを見出。

九州大学津田教授らの仕事

STAT3-dependent reactive astrogliosis in the spinal dorsal horn underlies chronic itch

http://www.nature.com/nm/journal/vaop/ncurrent/full/nm.3912.html#methods


毎日新聞
http://mainichi.jp/shimen/news/20150721ddm041040067000c.html

2015年4月2日木曜日

Slc:SD - 日本エスエルシーのSDラット

日本で生産されているアウトブレッドラットのうちSDラットを紹介していきます。

SDラットは、Sprague Dawley ラットの略です。その由来は以前紹介しました。

妻の旧姓をつけられたラット

また、SDラットの使用数は、Wistarラットの倍程度です。

SD6割、Wistar3割

さて、Slc:SDですが、1968年に米国チャールスリバー社から、日本エスエルシーに導入されました。その後、生産と供給が行われています。

性質温順で取り扱い易い。
比較的大型で発育良好。
繁殖性良好。
安全性試験や薬理試験等に幅広く使用されています。

参考資料
日本エスエルシーカタログ
日本エスエルシー2013実験動物データ集

2014年10月10日金曜日

2週齢以下のマウス・ラットの個体識別

2週齢以下(生後14日以下)のマウスやラットの個体識別をする場合があります。

未だ毛が生えそろっていないので、ピクリン酸などによる色素塗付法を用いることができません。
また、耳介も未発達なため、耳パンチ法による個体識別もできません。

そこで、新生児のマウス・ラットを個体識別には、やむを得ない処置として、指先を切断することが行われます。

注意点としては、

  1. 局所麻酔薬を用いる
  2. 片側の後肢の一本の指先のみを切断する
  3. 切断した指先からDNAを抽出し、遺伝子型解析に用いるべき

後肢には、5本の指があります。一本ずつ切断することで、最大10頭を識別できます。

前肢を切断してはいけません。なぜなら、物をつかんだり、毛づくろいする能力を低下させる可能性が高いからです。


参考資料
遺伝子改変マウス作出における洗練(refinement)および削減(reduction):Laboratory Animals 37, Suppl 1, July 2003の訳出; p45

2014年10月9日木曜日

約1日半のずれ

マウスの平均妊娠期間は、約18~19日、ラットでは約20~21日です。

その理由は、ラットでは、マウスに比べ、着床が約1日半遅れるため、とされてます。

着床が完了するのが、マウスでは胎齢6.5日、ラットでは7.75日です。
その後は、ほぼ同じペースで発生します。

ということは、マウスの胎齢と同じ発生段階のラット胎児を得るには、そのマウス胎齢プラス1ないし2日のラット胎児を得る必要があります。

例えば、神経堤の形成は、マウスでは8日、ラットでは10日、中腎管の形成はマウスで9.5-10日、ラットで10.5-11日です。また、体表に毛包が出現するのは、マウスで14日、ラットで15日と言われています。

最後に、いつを胎齢0日とするか、です。
一般的には、膣栓確認日を胎齢0日、としています。

参考資料
実験動物学各論; p21
マウス・ラットの解剖と器官発生 小児外科 29(2):143-152
日本エスエルシー実験動物価格表

2014年9月24日水曜日

122万頭

日本におけるラットの販売数が激減しているようです。

公益社団法人日本実験動物協会が「平成25年度実験動物の年間総販売数調査報告書」を出しました。
この調査は昭和60年度から3年に一度、実験動物生産者の年間販売数を調査し、実験動物数の動向を調べるものです。
今回、平成25年度一年間に販売・供給された実験動物の数が公表されました。

調査対象は、実験動物を生産している企業、大学・独立行政法人で、合計43社・機関です。
マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、サル類、ブタ、ヤギ、めん羊、鳥類について調べています。

ナショナルバイオリソースプロジェクト「ラット」を実施しているものとしては、ラットの販売数が気になるところです。
さて、そのラットですが、年間の総販売数が122万頭で、前回3年前(平成22年度)に比べ、42.7万頭減(25.9%減)となっています。
122万頭の内訳を以下に示します。
          平成22年度→平成25年度
アウトブレッド: 146万頭→109万頭(25.4%減)
近交系:     15.4万頭→9.6万頭(37.7%減)
ミュータント系: 3.1万頭→3.4万頭(9.1%増)

これらからわかるように、販売数減少の主な要因は、もともと総販売数の大半を占めていたアウトブレッドラットの販売数減少です。

アウトブレッドラットは、薬効試験や安全試験に使用されています。製薬企業の研究所の集約化や閉鎖を反映して、アウトブレッドラットの使用数が減少したものと思われます。

一方、ミュータント系統は利用が増えています。薬効試験を行うにしても安定的な表現型を示すミュータント系で実施する傾向になっているのでしょう。

2014年4月30日水曜日

ラットの唾液腺

ラット頸部の皮下組織を観察する機会がありました。

組織としては、腹側から背側に向かって、顎下リンパ節、耳下腺、舌下腺、顎下腺があります。



  1. 顎下リンパ節 (lymphonodi submandibulares)
    黄色っぽい。
    このラットでは少し腫れています。
  2. 耳下腺 (glandula parotis)
    透明でゲル状の脂肪のような組織に白い腺がみえます。
    この写真では背部側にめくられて見にくいです。
  3. 舌下腺 (glandula sublingualis)
    顎下腺の最頭部側に位置します。
    顎下腺と区別がつけにくいです。
  4. 顎下腺 (glandula mandibularis)
    複数の葉状からなる組織です。
    ピンク色っぽい。
  5. 涙腺 (glandula lacrimalis)
    耳介の皮下直下にあります。
    茶色っぽい。
耳下腺、舌下腺、顎下腺をあわせて唾液腺 (salivary gland) といいます。

参考文献
The Laboratory Rat
Editied by Georg J Krinke.
Academic Press

2014年3月18日火曜日

ケージ交換

実験動物のマウスやラットは、ケージという箱状の入れ物で飼育されています。
ケージは、アルミやプラスチックからできています。
フタは、金属製で格子状となっており、固形試料を入れるためにくぼみがつくられています。
マウスやラットは、格子の隙間から餌をかじるわけです。

ケージには、パルプ製あるいは木製のチップが敷き詰められています。
これらを床敷きといいます。
床敷きは、糞尿の拡散防止、巣材となり、ケージの居住性を高めます。

マウスやラットは、ケージ内で糞尿をします。1週間程度で、床敷きが汚れてきます。
そこで、週に一度、ケージとそのフタの交換を行います。これをケージ交換といいます。

ケージ交換時の3大留意点
  1. 動物の観察
    ケージ交換は、動物に触れる絶好の機会です。
    動物の健康状態を観察します。
  2. 動物を逃がさない
    動物が逃げた場合は、捕獲するまでその場を離れてはなりません。
    まわりの人に呼び掛けて、必ず捕獲しましょう。
  3. 餌と水を与える
    餌と水を十分に与えましょう。
    ケージ交換は、動物の”住”と”食”を保障するものです。
    水は、自動給水と給水ビンによるものがあります。
    給水ビンの場合は、清潔な給水ビンに新鮮な水を入れて与えます。


2014年2月11日火曜日

ドイツのd、伝染病研究所のd、予防衛生研究所のY

ddYマウスという日本で開発されたアウトブレッド(非近交系)マウスがいます。
薬効、薬理、毒性などさまざまな試験研究に利用されています。
このマウスの由来を記載した文章を見つけましたので、転記します。

『実験動物飼育管理の実際』
小山良修(東京女子医大教授)
今泉清(予研獣疫部長)
鈴木潔(伝研獣医学部)
田中利男(日本モンキーセンター)
1963年
医学書院

Ⅰ.飼育管理
1.マウス
1)まえがき
a. 種類・系統
”現在わが国で一番広く用いられているいわゆるdd系は秦佐八郎が、ドイツから持ちかえってサルバルサン検定に使用していたものが、旧満鉄衛生研究所・安東洪次のもとに伝わり、これが戦時中さらに伝染病研究所に送られて、封鎖集団 (closed colony)内での雑交配(random mating)がつづけられて来たものである。さらに昭和26年以来この集団をもとにして積極的に繁殖が再開され、dd系という名で伝染病研究所各研究部・東京大学に供給されるようになり、また各所にわたって繁殖され、繁殖箇所頭文字をつけてddD(伝染病研究所)、ddN(実験動物中央研究所)、ddO(大阪大学微生物病研究所)、ddT(武田薬品工業・光工場)、ddY(予防衛生研究所)などと呼ばれるようになった。したがって、dd系なるものは一般に近交系ではないが、一部では近交20代をすぎた近交系ddを保持しているところもある。”

伝染病研究所は、現在の東京大学医科学研究所。
予防衛生研究所は、現在の国立感染症研究所。

予研で開発された近交系DDYは、国立感染症研究所の獣医科学部実験動物開発室が移行した先の、医薬基盤研究所実験動物研究資源バンクから利用できます。



2014年1月19日日曜日

「ソト」にいるがゆえに関心が払われない実験動物

『日本の動物観-人と動物の関係史』
石田戢、濱野佐代子、花園誠、瀬戸口明久
東京大学出版会
2013年3月15日初版

日本人の動物観を、ペット、産業動物、野生動物、展示動物の観点から考察した書。
日本人は、ヒトと動物の間に断絶はなく、連続性をみている、とする。例えば、人が動物になったり、動物が人に化けたりする。このような昔話が多数存在する。それゆえ、人を中心とした「ウチ」とその周辺の「ソト」と厳密に使い分ける。動物は、「ウチ」から「ソト」へ、ペット、家畜、野生動物の順に配置される。

ペットは、室内飼いが多くなり、今や、「ウチ」のヒト、つまり家族となった。そこでコンパニオンアニマルと呼ばれる。
家畜などの産業動物は、以前は零細に飼育されていたが、今や大規模に飼育される。効率性が優先されるので、厳密に管理されており、もはや部外者は飼育の様子を見ることは難しい。そして、徐々に「ソト」の動物となってきた。その最たるものは、実験動物。実験動物はその飼育・繁殖が外部の者にはほとんどまったくといっていいほどわからない。また、話題にのぼることもない。そして、普段、見ることも触れることもないので、一般の人にとっては、関心がわかない。
野生動物は、もっとも「ソト」に存在する。まったくもってうかがい知れない世界に住んでいるので、人に害を及ぼさない限り、人は基本的に無関心。

動物実験に関しては、一般の人々がどのような関心をもっているか、気になるところです。日本にも、動物実験を行っているところがあり、それに反対する方々もいます。法律も制定されていますが、国民的に話題にのぼることはほとんどありません。そのことが、私にはずっと疑問でしたが、この本を読んで少しわかったようなきがしました。一般の日本人は、動物実験なんて見たこともない(見ようと思っても見ることはほぼ不可能)。実際、動物実験の現場は幾重にも隔離され、遠い遠い「ソト」となってしまっています。

終章での一文が気になります。「実験動物への倫理的取り扱いは、動物福祉運動と動物実験の実施者である企業・研究者との内輪の対立とみられており、それゆえに動物実験への制約はよりシビアになっていくと思われる」

2013年12月21日土曜日

research oversight

医学生物学領域に関する国際原則 (The international Guiding Principles For Biomedical Research Involving Animals) は、10の原則からなります。
最後の原則です。

1. While implementation of these Principles may vary from country to country according to cultural, economic, religious, and social factors, a system of animal use oversight that verifies commitment to the Principles should be implemented in each country.
(私訳)これらの「原則」の履行は文化的、経済的、宗教的、社会的要因に従って、国によって様々であろう。しかし、「原則に従うことを保証するための監視システムは個々の国々で履行されなければならない。
(解説)「原則」に従って動物実験が行われているかを監視するシステムが必要

2. This system should include a mechanism for authorization (such as licencing or registering of institutions, scientist, and/or projects) and oversight which may be assessed at the institutional, regional, and/or national level.
(私訳)このシステムは、機関、科学者、プロジェクトへの免許付与や登録などといった権限付与の機序を含まなければならない。そして機関レベル、地域レベル、あるいは国レベルで、監視しなければならない。
(解説)

3. The oversight framework should encompass both ethical review of animal use as well as considerations related to animal welfare and care.
(私訳)監視の枠組みは、動物の使用についての倫理的審査ならびに動物の福祉とケアに関する考慮を含まなければならない。
(解説)

4. It should promote a harm-benefit analysis for animal use, balancing the benefits derived from the research or educational activity with the potential for pain and/or distress experienced by the animal.
(私訳)それは、コストーベネフィット解析を推進しなければならないし、それにより、研究や教育活動から得られるベネフィットと動物が被る潜在的な痛みや苦痛とのバランスをとることができる。
(解説)

5. Accurate records should be maintained to document a system of sound program management, research oversight, and adequate veterinary medical care.
(私訳)プログラム管理、研究監視、そして、適切な獣医学的ケアを記載するために、正確な記録を残さなければならない
(解説)

動物実験、実験動物を使用する場合は、この「原則」を最上位において行うべきという考え方です。
そのため、実験動物を用いた研究は、「原則」に沿って行われるべきで、その妥当性を担保するために、監視システムの設置が求められます。
つまり、研究のためには、どんな動物実験を行ってもよい、というわけではありません。だから、research oversightという言葉が出てくるのだと思います。倫理的、法的に適正な動物実験を行っているかを監視するシステムです。日本では、各機関の動物実験委員会がこれに該当するのでしょう。

2013年12月20日金曜日

It is the responsibility of the institution

医学生物学領域に関する国際原則 (The international Guiding Principles For Biomedical Research Involving Animals) は、10の原則からなります。
9つ目の原則です。

1. It is the responsibility of the institution to ensure that personnel responsible for the welfare, care, and use of animals are appropriately qualified and competent through training and experience for the procedures they perform.
(私訳)動物の福祉、ケア、使用について責任ある個々の研究者には、適切に資格が与えられ、訓練や経験を通して自身が行う手技を満たせるよう、研究機関は努めなければならない。
(解説)研究者個人ではなく、所属研究機関に責務がある


2. Adequate opportunities shoudl be provided for on-going training and education in the humane and responsible treatment of animals.
(私訳)動物の人道的で責任ある扱いに関する訓練と教育に関して、適切な機会が提供されなければならない。
(解説)

3. Institutions also are responsible for supervision of personnel to ensure proficiency and the use of appropriate procedures.
(私訳)機関はまた、個々の研究者が習熟できるよう指導すること、そして、適切な手技を用いることに対して責任を負う
(解説)

動物を適正に扱うことに関して、個々の研究者や現場の作業者に任せるのではなく、その所属機関の責任で、研究者や作業者に動物を適正に扱うよう指導、学習、訓練される必要性が述べられています。
機関全体で責任を負うということです。例えば、A大学のBさんが、不適切な動物実験を行った場合、その責任は、Bさんにあるのではなく、A大学全体にある、ということになります。Bさんが不適切な動物実験を行ったのは、Bさんを適切に指導できなかった管理者側(大学側)にあるということです。