2014年7月14日月曜日

アウトブレッドとは、

ある集団が一定の大きさで維持されている実験動物では、「遺伝的浮動」によって、遺伝子組成に変化が出る可能性について述べました。

実験動物関連で、「遺伝的浮動」の影響を受けやすい集団とは、どのような集団でしょう。
条件としては、集団のサイズが限定されており、ヘテロ性が残存している集団です。

それは、アウトブレッド(outbred)と呼ばれる集団です。

アウトブレッドとは、インブレッド(inbred; 近交系)に対する語で、”遺伝的に明確ではない”集団のことをいいます。
例えば、マウスではCD-1, ICR, ddYなど、ラットではWistar, SDなどです。

ヘテロ性が残存していると考えられるので、雑種強勢(hybrid vigor)を示します。例えば、寿命が長い、病気に強い、性成熟が早い、産子数が多い、新生児の死亡率が低い、速い成長、サイズが大きいなどの形質を示します。

近交系に比べ、生産効率が良いので、安価です。そのため、様々な分野で汎用されています。

アウトブレッドの交配は、人為的な選抜を極力避けるよう、ランダム交配によります。しかし、本当にランダムな交配というのは不可能です。そこで、ローテンションシステムという方法で交配します。

要するに、世代を経ても、遺伝子頻度が変化しないように、交配方法を工夫します。
「遺伝的浮動」は避けられないものですが、その影響を極力小さくするために集団のサイズを大きくしています。

参考文献
Mouse Genetics concepts and applications p42

2014年7月13日日曜日

遺伝的浮動, random drift, genetic drift

集団の遺伝子頻度が世代間で偶然に変動することを「遺伝的浮動」といいます。

「遺伝的浮動」は、次世代に寄与する配偶子が無作為に抽出されることによって起こるので、遺伝子頻度は世代ごとに変化し、その変化の方向性もありません。

変化の程度は、集団のサイズが小さいほど大きくなります。
例えば、N個体からなる集団であれば、集団の平均ヘテロ接合体頻度は、1/2Nずつ減少します。

100個体からなる集団であれば、一世代ごとに1/200=0.5%づつヘテロ接合体の頻度は減少しますが、10個体からなる集団であれば、5%づつヘテロ接合体の頻度は減少します。

つまり、100個体であれば、0.5%ずつホモ接合体が現れるのに対し、わずか10個体の集団であれば毎世代5%ずつホモ接合体が現れることになります。

遺伝子頻度の変化にも方向性がないわけですから、集団が小さければ、数世代後には思いよらない遺伝子頻度をもった(それもホモ接合体の多い)集団に変化(化けている)可能性があります。

ある集団が一定の大きさで維持されている実験動物に当てはめてみましょう。
この場合、この集団の遺伝的組成は、数年前と現在とでは異なっている可能性があります。
そして、実験動物の遺伝的な組成は、表現型に影響を与えるものですから、実験の再現性にも影響が出てくる可能性があります。


参考文献岩波生物学辞典第4版 p81
Introduction of quantitative genetics (forth edition) p48



2014年6月18日水曜日

辞書持込み不可

平成27年度の京都大学大学院医学研究科医科学専攻修士課程の学生要項が発表されました。
http://www.med.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2014/05/ikagaku_m_h27.pdf

この医科学専攻修士課程は、医学部以外の学部教育を受けた学生に、医科学分野における基礎知識の習得と研究のトレーニングの場を提供し、幅広い視野をもつ医科学研究者を養成することを目的としています。

我々の研究室でも学生を募集していますので、ご興味のある方は、HPをご覧ください。
http://www.anim.med.kyoto-u.ac.jp/Kuramoto/home.htm

出願期間は、平成26年7月15日~17日
試験日は、平成26年8月26日(火)です。

昨年までは、外国語の試験において、辞書の持ち込みが可能でした。
しかし、今年からは、辞書の持ち込みが不可となりました。

2014年5月28日水曜日

爬虫類館のラット

最も古いアウトブレッドストックとして、パリ植物園で飼育されてたラットがいます。

1856年に発行された雑誌"Magasin Pittoresque"3月号の75-76ページに記事があります。

この記事をブリュッセルのルーバン大学医学部のBazin博士がRat News Letter (1988) で紹介しています。雑誌の記事はフランス語で書かれているので、内容を英語に翻訳し紹介しています。

それでは、1850年ごろ(今から160年ほど前)、パリでの飼育ラットの状況を見てみましょう。

当時、パリの植物園内で飼育されていた爬虫類の餌としてアルビノマウスと黒白まだらのラットが飼育されていました。これらのマウスやラットは、生餌として、あるいは屠殺された直後に爬虫類に与えられました。
爬虫類の担当者は、主に、黒白まだらのラット(黒い頭、背部に黒いストライプ、他の部分は白)を繁殖していました。これらのラットは繁殖力が旺盛で、1年に8産とれることもあり、1産あたりの産子も10-12匹であったようです。ラットたちがかじらないように、金属を貼った木製のケージで繁殖が行われました。

パリ植物園は、1635年に王立の薬草園として開設され、1793年に自然史博物館となりました。そのころから、博物館内の動物園では、爬虫類が飼育されていたと想像されます。その爬虫類を飼育するためにマウスやラットが繁殖されていたのでしょう。
そうすると、1850年よりもかなり以前から、パリ植物園ではラットが飼育されていたと思われます。
そのため、パリ植物園の頭巾斑ラットストックが、最古のストックとして紹介されているのです。

Bazin博士は、1988年にパリ植物園の爬虫類館を訪れ、この白黒まだらラット譲り受ました。
そして、研究室に持ち帰り、それらをもとに近交系を確立しました。
現在では、PAR系統として知られています。PAR系統は野生由来のBN系統と並んで、実験用ラット系統のなかで、最も遺伝的に離れた系統であることが報告されています。

パリ植物園は現在でもパリにあります。そこには動物園があり爬虫類も飼育されています。
今でも、ラットが飼育されているのでしょうか?いつか訪ねてみたいものです。

参考文献
The Laboratory Rat, 99 33.
Rat News Letter 20: 14, 1988.
Genome Res. 7: 262-267, 1997.

2014年5月27日火曜日

妻の旧姓をつけられたラット

ウィスターラットと並んでよく利用されるアウトブレッドラットにSDラットというのがあります。
SDとは、Sprague-Dawleyの略です。

今回は、SDラットの由来を見てみましょう。

オリジナルのストックは、1925年、ウィスコンシン大学の物理化学者である Robert Worthington Dawley 氏によって確立されました。

Spragueといのは、彼の最初の妻の旧姓で、自分の名字と併せて、Sprague-Dawleyと名付けたとのことです。

彼は、ウィスコンシン州のマディソンに Sprague-Dawley Inc.という会社を設立し、ラットの販売を始めました。Dawley氏の死後(1949年)、この会社は、ARS/Sprague-Dawley Companyとなり、今日では、Harlan Sprague-Dawleyとして世界的にも有名な実験動物供給元となっています。

さて、SDラットの由来です。

オリジナルのストックは、非常に大柄で元気な頭巾斑の雄ラット(ただし、アルビノをヘテロにもつ)に由来します。この雄ラットとアルビノの雌ラットを交配し、得られた産子のうち雌の産子に戻し交配をしました。このような戻し交配を7回繰り返し、アルビノのラットを用いて、複数ラインで、近交化を図りました。その中から、10頭を選び交雑しました。選抜の基準は、哺乳能力が高い、成長が早い、健康、気性がよい、亜ヒ酸(arsenic trioxide)に耐性があることです。

最初の雄ラットの由来は不明です。
交配に用いた雌ラットの由来は、Douredoure strainというもので、おそらくウィスター研究所に由来すると思われます。

現在でも、SDラットは複数の業者から購入可能です。
いずれの業者のカタログにも、SDラットは、性質温順、発育良好、繁殖良好、体型大型と紹介されています。つまり、選抜された特性を引き継いでいるのです。
ということは、現在のSDラットも亜ヒ酸に耐性があると想像されます。

参考文献
The Laboratory Rat: pp 32.
Rat Quality - A Consideration of Heredity, Diet and Disease: pp 86-97.







2014年4月30日水曜日

ラットの唾液腺

ラット頸部の皮下組織を観察する機会がありました。

組織としては、腹側から背側に向かって、顎下リンパ節、耳下腺、舌下腺、顎下腺があります。



  1. 顎下リンパ節 (lymphonodi submandibulares)
    黄色っぽい。
    このラットでは少し腫れています。
  2. 耳下腺 (glandula parotis)
    透明でゲル状の脂肪のような組織に白い腺がみえます。
    この写真では背部側にめくられて見にくいです。
  3. 舌下腺 (glandula sublingualis)
    顎下腺の最頭部側に位置します。
    顎下腺と区別がつけにくいです。
  4. 顎下腺 (glandula mandibularis)
    複数の葉状からなる組織です。
    ピンク色っぽい。
  5. 涙腺 (glandula lacrimalis)
    耳介の皮下直下にあります。
    茶色っぽい。
耳下腺、舌下腺、顎下腺をあわせて唾液腺 (salivary gland) といいます。

参考文献
The Laboratory Rat
Editied by Georg J Krinke.
Academic Press

2014年4月2日水曜日

土をこねて物の形をつくる。穴に鼠がはいる様子。

理化学研究所が「STAP細胞」作製を報告した論文中に、捏造と改竄という意図的な不正があったとする最終報告を出しました。

『広辞苑』によりますと、
「捏造」とは、事実でないことを事実のようにこしらえて言うこと。土などをこねてものの形を作ること。
「改竄」とは、字句などを改めなおすこと。多く不当に改める場合に用いられる。

以下、『新字源』によりますと、
捏という漢字は、ねばついた土に手を加えて「こねる」、からめるという意。
これから派生して、
1) こねる、からめる。
2) こじつける、でっちあげる。
3) からめる、にぎる。
4) おす、おさえる、おさえつける。

竄という漢字は、穴に鼠が隠れるさま、から逃げ隠れるという意。
1) かくれる、かくす。
2) のがれる、にげる。
3) はいる、あなにはいる。
4) しみいる、香などがしみこむ。
5) ひそか、かすか。
6) はなす、遠方に追放する、流竄、竄逐。
7) あらためる、文字をかえる、竄改、改竄。

「捏」が、手を使い、土をこねて、形のないものから形のあるものへ作り上げるという意味を示すことは、イメージしやすいです。

「竄」ですが、穴と鼠の組合せですので、隠れる、逃れるというのは、イメージできます。
そこから、穴に入る→しみいる→しみいったものがかすかに出てくる→放つ、追放する→もとのものとは違ったものになる、というような意味の展開でしょうか?

鼠(ねずみ)関連の漢字だけに気になります。