2014年5月28日水曜日

爬虫類館のラット

最も古いアウトブレッドストックとして、パリ植物園で飼育されてたラットがいます。

1856年に発行された雑誌"Magasin Pittoresque"3月号の75-76ページに記事があります。

この記事をブリュッセルのルーバン大学医学部のBazin博士がRat News Letter (1988) で紹介しています。雑誌の記事はフランス語で書かれているので、内容を英語に翻訳し紹介しています。

それでは、1850年ごろ(今から160年ほど前)、パリでの飼育ラットの状況を見てみましょう。

当時、パリの植物園内で飼育されていた爬虫類の餌としてアルビノマウスと黒白まだらのラットが飼育されていました。これらのマウスやラットは、生餌として、あるいは屠殺された直後に爬虫類に与えられました。
爬虫類の担当者は、主に、黒白まだらのラット(黒い頭、背部に黒いストライプ、他の部分は白)を繁殖していました。これらのラットは繁殖力が旺盛で、1年に8産とれることもあり、1産あたりの産子も10-12匹であったようです。ラットたちがかじらないように、金属を貼った木製のケージで繁殖が行われました。

パリ植物園は、1635年に王立の薬草園として開設され、1793年に自然史博物館となりました。そのころから、博物館内の動物園では、爬虫類が飼育されていたと想像されます。その爬虫類を飼育するためにマウスやラットが繁殖されていたのでしょう。
そうすると、1850年よりもかなり以前から、パリ植物園ではラットが飼育されていたと思われます。
そのため、パリ植物園の頭巾斑ラットストックが、最古のストックとして紹介されているのです。

Bazin博士は、1988年にパリ植物園の爬虫類館を訪れ、この白黒まだらラット譲り受ました。
そして、研究室に持ち帰り、それらをもとに近交系を確立しました。
現在では、PAR系統として知られています。PAR系統は野生由来のBN系統と並んで、実験用ラット系統のなかで、最も遺伝的に離れた系統であることが報告されています。

パリ植物園は現在でもパリにあります。そこには動物園があり爬虫類も飼育されています。
今でも、ラットが飼育されているのでしょうか?いつか訪ねてみたいものです。

参考文献
The Laboratory Rat, 99 33.
Rat News Letter 20: 14, 1988.
Genome Res. 7: 262-267, 1997.

2014年5月27日火曜日

妻の旧姓をつけられたラット

ウィスターラットと並んでよく利用されるアウトブレッドラットにSDラットというのがあります。
SDとは、Sprague-Dawleyの略です。

今回は、SDラットの由来を見てみましょう。

オリジナルのストックは、1925年、ウィスコンシン大学の物理化学者である Robert Worthington Dawley 氏によって確立されました。

Spragueといのは、彼の最初の妻の旧姓で、自分の名字と併せて、Sprague-Dawleyと名付けたとのことです。

彼は、ウィスコンシン州のマディソンに Sprague-Dawley Inc.という会社を設立し、ラットの販売を始めました。Dawley氏の死後(1949年)、この会社は、ARS/Sprague-Dawley Companyとなり、今日では、Harlan Sprague-Dawleyとして世界的にも有名な実験動物供給元となっています。

さて、SDラットの由来です。

オリジナルのストックは、非常に大柄で元気な頭巾斑の雄ラット(ただし、アルビノをヘテロにもつ)に由来します。この雄ラットとアルビノの雌ラットを交配し、得られた産子のうち雌の産子に戻し交配をしました。このような戻し交配を7回繰り返し、アルビノのラットを用いて、複数ラインで、近交化を図りました。その中から、10頭を選び交雑しました。選抜の基準は、哺乳能力が高い、成長が早い、健康、気性がよい、亜ヒ酸(arsenic trioxide)に耐性があることです。

最初の雄ラットの由来は不明です。
交配に用いた雌ラットの由来は、Douredoure strainというもので、おそらくウィスター研究所に由来すると思われます。

現在でも、SDラットは複数の業者から購入可能です。
いずれの業者のカタログにも、SDラットは、性質温順、発育良好、繁殖良好、体型大型と紹介されています。つまり、選抜された特性を引き継いでいるのです。
ということは、現在のSDラットも亜ヒ酸に耐性があると想像されます。

参考文献
The Laboratory Rat: pp 32.
Rat Quality - A Consideration of Heredity, Diet and Disease: pp 86-97.