2016年7月19日火曜日

三種混合麻酔薬

以下の三種類の薬剤を混合し、マウスやラットの麻酔薬として用いる。

1)メデトミジン medetomidine
  麻酔薬
  オピオイド
  拮抗薬として、ブトルファノールとアチパメゾール
  商品名:Domitor 日本全薬工業

2)ミダゾラム midazolam
  鎮静薬
  ベンゾジアゼピン類
  商品名:Dormicum アステラス製薬
  
3)ブトルファノール butorphanol
  麻薬性鎮痛薬
  商品名:Vetorphale 明治製菓ファーマ

濃度は以下の通り
  メデトミジン:0.15mg/kg体重
  ミダゾラム:2.0mg/kg体重
  ブトルファノール:0.75mg/kg体重

特徴は、麻薬指定されている薬剤を用いない。麻酔死が少なく安全。アチパメゾールという拮抗薬を投与することで、急速に回復。

その他:
滅菌生理食塩水での希釈
4度あるいは室温に保存しても、少なくとも8週間は安定
投与経路は、腹腔内投与あるいは皮下投与
麻酔からの回復には、アチパメゾールをメデトミジンの5倍量を皮下投与


参考資料:
LABIO21 No65, July 2016
ラボラトリーアニマルの麻酔 Flecknell著
Kirihara et al., (2016) Exp Anim 65:27-36
  

F344ラット亜系統におけるdipeptidyl peptidase IV (DPP4)/CD26活性の違い

dipeptidyl peptidase IV (DPP4)という酵素があります。
この酵素は、ペプチドを基質に、そのN末のジペプチドを遊離させます。

ホルモン制御、免疫反応、腎ペプチドの加水分解などに重要な働きをしていると考えられています。

実は、F344ラットのうち、日本チャールス・リバー社のF344ラットは、この遺伝子にミスセンス変異(Gly633Arg)をもっており、DPP4活性が欠損しています。

他方、日本SLCのF344、日本クレアのF344は、この遺伝子は正常で、DPP4活性を持っています。

マウスに高脂肪食を与えると、肥満や高インスリン血症になりますが、DPP4遺伝子のノックアウトマウスに高脂肪食を与えても、肥満、インスリン血症になりません。

おそらく、ラットでも同様のことがいえると思います。F344ラットを用いて高脂肪食で肥満を誘発する実験を行う場合は、どのブリーダーのF344を用いるか考慮する必要があります。

追加:
チャールス・リバー社のF344ラットのうち、ドイツのチャールス・リバーのF344はDPP4が欠損しています。しかし、米国チャールス・リバー社のF344はDPP4活性があります。

参考資料:
Watanabe et al., (1987) Experimentia 43:400-401
Thompson et al., (1991) Biochem J 273:497-502
Tsuji et al., (1992) Biochemistry 31:11921-11927
Erickson et al., (1992) JBC 267:21623-21629



2016年7月14日木曜日

イソフルラン:薬物代謝酵素への影響が少ない吸入麻酔薬

イソフルランは、マウス・ラットの吸入麻酔薬として利用されています。

導入と覚醒が非常に早く、麻酔の深度も容易かつ迅速に変えることができます。
非刺激性、非引火性であることも実験を行う上で、重要です。

動物の50%を不動化させるのに必要な濃度(肺胞内の濃度:Minimum Alveolar Concentration)は、マウスで1.41%、ラットで1.38%です。

実験をするうえでの最大の特徴は、代謝率が0.2%と非常に低いことです。肝臓のミクロソームの酵素への影響は少なく、薬剤の代謝および毒性研究にほとんど影響しないと考えられています。

参考:
『ラボラトリーアニマルの麻酔』Flecknell著、倉林譲監修
ラビオ21 No.65 (Jul 2016)





2016年7月13日水曜日

F344:Dunning系とNIH系

F344系統は、1920年にコロンビア大学のCurtisらによって系統化が始められました。

1926年にCurtisのグループにWilhelmina Francis Dunningという女性が加わります。当時はパートタイムの学生アシスタントだったそうです。その後Dunningは学位を取得し、コロンビア大学に職を得ます。そして、Crocker Institute of Cancer Researchにおける、ラット近交系の維持の責任者になりました。

コロンビア大学のF344系統は、1949年にHestonを経て、NIHにF344が導入されています。これがF344/Nという亜系統になります。

これとは別に、1960年に米国のチャールス・リバー社に導入されF344/DuCrlという亜系統になっています。

つまり、F344系統は、NIH系とDunning系という2つの亜系統に分けられるということです。

日本のブリーダーから得られるF344は、以下の通りに分けられます。

1)NIH系: 
  日本SLCのF344/NSLc

2)Dunning系:
  日本チャールス・リバーのF344/DuCrlCrlj
  日本クレアのF344/Jcl


参考文献:
The Laboratory Rat, second Edition, Ed;Suckow, Weisbroth, Franklin, Academic Press, 2006
日本チャールス・リバー株式会社 総合カタログ
日本クレア株式会社 総合カタログ
日本エスエルシー カタログ



2016年7月7日木曜日

F344系統の由来

F344という近交系ラットがいます。アルビノのラットで比較的小型で、薬理・薬効試験、長期発癌試験などで使用されています。

F344は、1920年、Maynie Rose Curtis という女性の科学者が、米国コロンビア大学の Crocker Institute of Cancer Research で、近交化を始めたラットに由来します。

この時使用したラットは、Fischerという地元のブリーダーから入手しました。毛色は、黒のぶち でしたが、アルビノのキャリアだったようです(a/a, B/B, C/c, h/h) 。交配番号344から得られた最初の産子が、F344系統の始まりです。


参考文献:
The Laboratory Rat, second Edition, Ed;Suckow, Weisbroth, Franklin, Academic Press, 2006