2014年7月25日金曜日

Slc:Wistar/ST - 日本エスエルシーのウィスター

日本で入手できるアウトブレッドラット(その6です)。

Slc:Wistar/STは、日本エスエルシーが生産している2種類のウィスターラットのうちのひとつです。
もう1種類は、Slc:Wistarというのもでした。

1974年、東京大学医科学研究所から導入されました。

10週齢で、雄300g前後、雌200g弱と比較的大型です。

Slc:WistarはかなりF344ラットと似た表現型を示します。
しかし、このSlc:Wistar/STはいわゆる”ウィスターラット”で、体型が大型、性質温順です。

STの由来は、SLC Takagi であると耳にしたことがありますが、本当のところは知りません(Takagiは日本エスエルシー社の経営者の苗字です)。

参考資料
日本エスエルシー株式会社総合カタログ

2014年7月24日木曜日

Slc:Wistar - 日本エスエルシーのウィスター

日本で入手できるアウトブレッドラット(その5)です。

Slc:Wistarは日本エスエルシー社が生産しているウィスターラットです。

1968年に東京大学医科学研究所から導入されました。

10週齢で、雄250g前後、雌150g前後と比較的小型です。

このSlc:Wistarラットは確かにアウトブレッドラットですが、その遺伝的組成はF344(Fischer)ラットと非常に似ていることが以前から指摘されています。
例えば、成長曲線、生存率、腫瘍の発生部位や頻度などがF344ラットと類似していることが指摘されています。また、Slc:Wistarで得られた白血病細胞がF344ラットに移植できることから免疫系の類似点も指摘されています。

毒性学の分野では、Slc:WistarはF344に非常に似ているということはよく知られているようです。
内閣府の食品安全委員会の農薬専門調査会評価第二部会の委員のひとりがこんなことをおっしゃています。

「・・・このSlc:WistarはもともとFischerラットですので、・・・」
食品安全委員会 農薬専門調査会 評価第二部 第21回会合議事録 20ページ


我々の研究から、ゲノムレベルでも、Slc:WsitarとF344ラットが非常に似ていることが判明しつつあります。

参考資料
日本エスエルシー株式会社カタログ
Maekawa et al., J Toxicol Sci 8:279-290, 1983
Tayama et al., Exp Anim 35:65-76, 1986
Yagami et al., Exp Anim 40:407-410, 1991


2014年7月23日水曜日

excel 日付の書式(曜日の表示)

エクセルの日付に曜日を表示するには、セルの書式を「ユーザー定義」する。

曜日を表示する書式記号

aaa: 日~土
aaaa: 日曜日~土曜日

ddd: sun-sat
dddd: Sunday - Saturday


参考
http://www.relief.jp/itnote/archives/000018.php

2014年7月22日火曜日

Jcl:Wistar ― 日本クレアのウィスター

日本で入手できるアウトブレッドラット(その4)です。

Jcl:Wistarは日本クレア社が生産している2種類のウィスターラットのうちのひとつです。
もう1種類は、BrlHan:WIST@Jcl(GALAS)というものでした。

Jcl:WistarはWistar研究所(米国)に由来します。
1970年にCarworth Farm(英国)より導入されました。

カタログ等によりますと
12週齢で、雄300g前後、雌200g前後。
中型。

各種要因に対して優れた感受性があり、特に学習能力に優れている。
行動薬理、毒性、薬理、薬効試験や安全性試験など、幅広い分野の研究に使用されている。

104週生存率は、雄で75.4%、雌で44.8%

導入後、40年以上経過していますので、ある程度近交化が進んでいると思われます。
以前、我々はこのJcl:Wistarラットでは、ピンクアイダイリューションという毛色変異遺伝子がホモに固定していることを見つけました(Kuramoto et al, Mammalian Genome 2005)。
Jcl:Wistarはアルビノなので、毛色変異を持っていてもその効果が表現型として見えません。
ところが、有色のラットと交配するとこの毛色変異の効果が表に現れます。

我々がこのことに気付いたのは偶然でした。
Jcl:Wistar由来のアルビノのKaken Hairless Rat (KHR)というラットと有色のBrown Norway (BN) ラットとの交配実験を行ったときに、毛の色が薄くて、ピンク色の眼をしたラットが生まれてきたのです。
BNラットはピンクアイダイリューション変異を持っていないので、KHRラットがこの変異を持っていることは確実でした。そして、その由来となったJcl:Wistarまでもがピンクアイダイリューション変異を持っていることが判明したのです。


参考資料
日本クレア株式会社総合カタログ
日本クレア株式会社ホームページ

2014年7月18日金曜日

BrlHan:WIST@Jcl(GALAS) - 日本クレアのウィスターハノーバ

日本で入手できるアウトブレッドラット(その3)です。

BrlHan:WIST@Jcl(GALAS)は日本クレアが生産しているウィスターハノーバラットです。

由来は、他社のウィスターハノーバラットと同様です。

Zentral Institut fur Versuchstierzucht (ハノーバ、ドイツ)に由来。
1989年に156ペアがInstitute for Biomedical Research (IBM)へ導入
(IBMはその後、BRL Ltd、RCC Ltdと改名され現在へ)
1998年にRCCからGALASメンバーへ分与

GALASとは、Global Alliance for Laboratory Animal Standardizationの略で、実験動物標準化のための世界協定です。この協定は、1998年10月、日本クレア、RCC(スイス)、M&B(デンマーク)、Taconic Farm(米国)の4社によってつくられました。この4社がGALASメンバーです。

日欧米の三極で使用されるウィスターハノーバの品質を、同一の生産・供給体制を構築することで保証しようというものです。

GALASメンバーが生産するウィスターハノーバの名前は以下の通りです。
日本クレア:BrlHan:WIST@Jcl(GALAS)
RCC:BrlHan:WIST@Brl(GALAS)
M&B:BrlHan:WIST@Mol(GALAS)
Taconic Farms:BrlHan:WIST@Tac(GALAS)


参考資料
日本クレア株式会社総合カタログ
Global Alliance for Laboratory Animal Standardization (GALAS)について


2014年7月16日水曜日

Crlj:WI ― チャールス・リバー社のウィスター

日本で入手できるアウトブレッドラット(その2)です。

Crlj:WIは日本チャールスリバー社が生産している2種類のウィスターラットのうちのひとつです。
もう1種類は、Crl:WI(Han)というウィスターハノーバラットというものでした。

このラットはWistar研究所(米国)に由来します。
1947年にWistar InstituteからScientific Products Farm (チャールスリバーUKの前身)へ導入
1975年にチャールスリバーUSAに移動
1981年に日本チャールス・リバーに導入
水腎症の発生率が低いという理由で選ばれたとのこです。

10週齢体重が、雄で310-410g、雌で200-270g と比較的大型
繁殖性良好
取り扱い容易

安全性、がん、神経系、循環器系、老化、免疫、代謝など様々な分野で利用されています。

ウィスターラットと呼ばれているものでも、種類によってその特性は様々です。
日本には、a) 戦前に導入されたウィスターラット、b) 戦後に導入されたウィスターラット、 c) ハノーバーウィスターラット の大きく分けて3つの種類があります、というかありました。

ありました、というのは、戦前に導入されたウィスターラットは、主に大学等で維持されており、現在では、アウトブレッドとして維持されているものはないためです。

というわけで、現在、日本で利用できるウィスターラットは、いわゆる”ウィスターラット”(戦後派)と比較的最近になって導入された”ウィスターハノーバ”となります。

各実験動物生産業者も、この2ラインナップを生産・販売していることが多いです。

別名
Crlj:Wistar


参考資料
日本チャールス・リバー株式会社2014総合カタログ
Charles River Laboratories ホームページ




2014年7月15日火曜日

Crl:WI (Han) ― チャールス・リバー社のウィスター・ハノーバ

日本で入手できるアウトブレッドラット(その1)です。

日本チャールス・リバーが生産しているウィスターラットは、2種類あります。
ひとつが、このCrl:WI (Han)、もうひとつが、Crlj:WIです。

もともとは、ドイツハノーバのZentral Institut fur Versuchstierzucht (実験動物繁殖中央研究所)のウィスターハノーバ(Han:WIST)に由来します。
このウィスターハノーバラットがスイスのBRL(Biological Resource Laboratories)に移され、Glaxo Wellcomeに供給。

1996年にチャールスリバーUKに導入。
1997年にチャールスリバーUSAに移動。
2007年に日本チャールスリバーに導入。

10週齢体重が、雄で約250g、雌で約180g と小型
生存率は104週で75%程度
平均産子数は9-10匹/腹

安全性、発がん性、老化などの分野で利用されています。

ある物質ががんを作るかどうかをラットを用いて試験します(がん原性試験)。
しかし、がんが体の中にできるには時間がかかります。そのため、使用するラットは長生きの方が試験期間中の歩留りがよく、経済的で、好まれます。

Wistar Hannoverラットは、生存率が2年で約75%と高いので、このような時間のかかる試験(がん、老化など)に適しているとされています。

Hannoverという名前からわかるように、Wistar Hannover ラットは主にヨーロッパにおいて安全性試験等に用いられてきました。このラットを毒性・薬理学分野での安全性試験でもちいる国際標準ラットとするための動きがありました。

しかし、アウトブレッドラットは遺伝的な統御が難しいので、繁殖集団が小さくなると瞬く間に繁殖コロニー間で分岐がおこります(遺伝的浮動を参照)。

そこで、生産コロニー間でラット同士をやりとりし、各コロニーを遺伝的組成を均一化する試みがなされています。この試みのうちチャールスリバー社で行われている遺伝管理方法を、International Genetic Standardization (IGS) といいます。

IGSの目的は、生産過程における近交化を最小限にし、ヘテロ接合性を維持し、コローニー間の分岐を回避することです。

別名
Wistar Han
Wistar Hannover
Hannover Wistar
Crl:WI(Glx/BRL/Han)IGS


参考文献
日本チャールス・リバー株式会社2014総合カタログ
日本クレア株式会社総合カタログ

2014年7月14日月曜日

アウトブレッドとは、

ある集団が一定の大きさで維持されている実験動物では、「遺伝的浮動」によって、遺伝子組成に変化が出る可能性について述べました。

実験動物関連で、「遺伝的浮動」の影響を受けやすい集団とは、どのような集団でしょう。
条件としては、集団のサイズが限定されており、ヘテロ性が残存している集団です。

それは、アウトブレッド(outbred)と呼ばれる集団です。

アウトブレッドとは、インブレッド(inbred; 近交系)に対する語で、”遺伝的に明確ではない”集団のことをいいます。
例えば、マウスではCD-1, ICR, ddYなど、ラットではWistar, SDなどです。

ヘテロ性が残存していると考えられるので、雑種強勢(hybrid vigor)を示します。例えば、寿命が長い、病気に強い、性成熟が早い、産子数が多い、新生児の死亡率が低い、速い成長、サイズが大きいなどの形質を示します。

近交系に比べ、生産効率が良いので、安価です。そのため、様々な分野で汎用されています。

アウトブレッドの交配は、人為的な選抜を極力避けるよう、ランダム交配によります。しかし、本当にランダムな交配というのは不可能です。そこで、ローテンションシステムという方法で交配します。

要するに、世代を経ても、遺伝子頻度が変化しないように、交配方法を工夫します。
「遺伝的浮動」は避けられないものですが、その影響を極力小さくするために集団のサイズを大きくしています。

参考文献
Mouse Genetics concepts and applications p42

2014年7月13日日曜日

遺伝的浮動, random drift, genetic drift

集団の遺伝子頻度が世代間で偶然に変動することを「遺伝的浮動」といいます。

「遺伝的浮動」は、次世代に寄与する配偶子が無作為に抽出されることによって起こるので、遺伝子頻度は世代ごとに変化し、その変化の方向性もありません。

変化の程度は、集団のサイズが小さいほど大きくなります。
例えば、N個体からなる集団であれば、集団の平均ヘテロ接合体頻度は、1/2Nずつ減少します。

100個体からなる集団であれば、一世代ごとに1/200=0.5%づつヘテロ接合体の頻度は減少しますが、10個体からなる集団であれば、5%づつヘテロ接合体の頻度は減少します。

つまり、100個体であれば、0.5%ずつホモ接合体が現れるのに対し、わずか10個体の集団であれば毎世代5%ずつホモ接合体が現れることになります。

遺伝子頻度の変化にも方向性がないわけですから、集団が小さければ、数世代後には思いよらない遺伝子頻度をもった(それもホモ接合体の多い)集団に変化(化けている)可能性があります。

ある集団が一定の大きさで維持されている実験動物に当てはめてみましょう。
この場合、この集団の遺伝的組成は、数年前と現在とでは異なっている可能性があります。
そして、実験動物の遺伝的な組成は、表現型に影響を与えるものですから、実験の再現性にも影響が出てくる可能性があります。


参考文献岩波生物学辞典第4版 p81
Introduction of quantitative genetics (forth edition) p48