2013年11月29日金曜日

動物実験のエンドポイント

医学生物学領域に関する国際原則 (The international Guiding Principles For Biomedical Research Involving Animals) は、10の原則からなります。
8つ目の原則です。

1. Endopoints and timely interventions should be established for both humane and experimental reasons.
(私訳)人道的そして実験上の理由から、エンドポイントやタイムリーな介入というものが設定されなければならない。
(解説)エンドポイントとは、実験を終了する時点のことです。実験目標達成によるエンドポイントと人道的エンドポイントの2つがあります。実験計画の段階でこれらをあらかじめ設定する必要があります。

2. Humane endpoints and/or interventions should be established before animal use begins, should be assessed throughout the course of the study, and should be applied as early as possible to prevent, ameliorate, or minimize unnecessary and/or unintended pain and/or distress.
(私訳)人道的なエンドポイントやタイムリーな介入は、動物を使用する前に設定されなければならない。また、研究期間中ずっと評価されなければならない。さらに、不必要あるいは望まれない痛みや苦痛を防ぐ、軽減するあるいは最小限にするためにできるだけ速やかに適用されなければならない。
(解説)人道的エンドポイントについての文章です。

3. Animals that would be otherwise suffer severe or chronic pain, distress, or discomfort that cannot be relieved and is not part of the experimental design, should be removed from the study and/or euthanized using a procedure appropriate for the species and condition of the animal.
(私訳)さもなければ、取り除くことができず、実験計画には入っていない過酷なあるいは慢性的な痛み、苦痛や不快感を被るような動物は、研究から除外されなければならない。また、動物種に応じたそして個々の動物の状態に応じた手段でもって安楽死処分されなければならない。
(解説)

エンドポイントとは、実験を終了する時点のことです。
2つの観点から設定されます。
一つ目は、実験目標の観点から設定されるもので、「実験目標に対するエンドポイント」と呼ばれます。科学上の目的と到達目標の達成を優先した実験終了の時点のことです。
二つ目は、人道的観点から設定されるもので、「人道的エンドポイント」と呼ばれます。動物が受ける苦痛を未然に防ぎ、終結させ、もしくは取り除いた時点を指します。

一般的に、「人道的エンドポイント」は、動物種ごとにある程度決まった時点というのが想定されると思います。例えば、急激な体重減少や行動量の減少などから、動物の健康状態が推測できます。そして、それらのスコア化などを通して、「人道的エンドポイント」が設定できます。
侵襲性の低い実験であれば、「実験目標に対するエンドポイント」<「人道的エンドポイント」となり、動物にきわめて重度の苦痛をあたえることはないと思います。
侵襲性の高い実験の場合はどうでしょう。侵襲性の高い実験では動物に耐えがたい痛みを与えることがあります。この場合「実験目標に対するエンドポイント」>「人道的エンドポイント」となり、どちらを優先すべきかという問題に直面します。

動物実験は科学的な目的を達成するために行われるわけで、これが動物実験の定義でもあります。

そのため、動物実験を行うことは、必然的に実験目標に対するエンドポイント」を優先するということにつながるのではないでしょうか。結果として、「人道的エンドポイント」の設定が困難になります。例えば、『実験動物の管理と使用に関する指針(第8版)』の実験目標達成によるエンドポイントと人道的エンドポイントを説明する段落の最後の文は以下のとおりです(p29)。
「すべての実験において人道的なエンドポイントを適用すべきであるが、腫瘍モデル、感染症、ワクチンの効果試験、疼痛モデル、外傷、モノクローナル抗体の作製、毒性試験、臓器あるいは器官系の不全、循環器系ショックのモデルなどに関わる動物実験は、特別な検討が一般的に必要とされる。」
多くの動物実験は、ここに挙げられたような種類のものです。そのため、「人道的エンドポイント」を適用することは、耐え難い痛みや苦痛をどの程度のものとするか、その線引きによると思われます。そして、その線引きは、かなり難しいものとなるでしょう。

このような実験では、少なくとも、瀕死の状態を定義し、その状態に陥った動物は、速やかに安楽死処分することが、必要ではないでしょうか。そのためには、日々の動物の状態の観察が非常に重要と思います。